第4次産業革命、IoT、Industrie 4.0、等のキーワードを旗印にした潮流は、既に産業界において様々なところで具現化しつつあります。これらのキーワードに共通し、そして根幹となるのは製造技術であり、ものづくりです。レーザプロセシングは、既に産業界において製造工程の様々な段階に導入されています。レーザは高い制御性を伴って非接触かつ超細密な加工を行えるため、製造における高度化と極めて高い親和性を持っています。レーザによる切断、溶接、熱処理はもちろんのこと、多光子過程の利用を含めた多彩な相互作用はあらゆる分野において活用されています。
 寺川研では、3Sをキーワードとしたレーザプロセシングの研究を行っています。3Sとは、Soft (stretchable, shrinkable), Small, S ensitiveの頭文字です。高強度光と物質の相互作用の物理を軸として、金属や透明誘電体等に加え、バイオマテリアル、細胞、ハイドロゲル等を利用した研究を進めています。研究では、萌芽的段階からスタートして新しい応用・概念を示すことに特に注力しています。レーザを使うことにより、これまでに無いバイオデバイス、アクティブインプラント、人工臓器を実現するための基盤技術を創出し、将来、インテリジェント化したハイテク工場で「やわらかいもの」が高速に生産される、そんな未来を思い描いています。

キーワード:ソフトマテリアルの超短パルスレーザ加工、レーザ誘起グラフェン、多光子還元、ハイドロゲルの機能化、光刺激アクチュエーション

研究ハイライト

     

2023【論文】蓄電デバイスの作製に向けてハイドロゲルを導電性に局所改質

レーザ照射によりハイドロゲルに導電性構造を描けることを初めて実証し、描画した構造を利用して蓄電デバイスの一つである電気二重層キャパシタを作製しました。ハイドロゲルはコンタクトレンズに使用されており、生体適合性の高い材料として知られています。今後、スマートコンタクトをはじめとするハイドロゲル・エレクトロクスデバイスへの応用が期待できます。
本研究はAdvanced Electronic Materialsに掲載されました。
https://doi.org/10.1002/aelm.202201277
      

2022【論文】竹を使った電気二重層キャパシタの作製

レーザ照射により竹に描画した導電性黒鉛質炭素を、電気二重層キャパシタの電極に応用しました。
竹は成長が早く、再生可能な資源であることから、本研究は環境負荷が低い蓄電デバイスの作製に貢献します。
本研究はRSC Advancesに掲載されました。
https://doi.org/10.1039/D2RA05641K
      

2022【論文】レーザーを使ってグラフェン量子ドット構造を描くように生成

レーザーパルスを透明高分子材料に集光照射することで、レーザービームの軌跡に沿って描くように蛍光性を示すグラフェン量子ドット(Graphene Quantum Dots: GQDs)が生成されることを明らかにしました。量子ドットは量子閉じ込め効果により蛍光を示すナノサイズの粒子であり、発光ダイオード、バイオマーカー、偽造防止タグ、等、様々な用途への利用が期待されています。中でもGQDsは環境に優しく、持続可能社会に適合する粒子として近年注目を集めています。今後、光学デバイスやフレキシブル・エレクトロニクス・デバイスへの応用が期待できます。
本研究はNano Lettersに掲載されました。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.nanolett.1c04295
また、慶應義塾からプレスリリースが配信されました。
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2022/1/25/28-92277/

2021【論文】PDMSの黒鉛化とその圧力センシング応用

PDMS表面に結晶性が高いグラフェンを直接描画しました。既存のレーザ誘起グラフェンに関する研究のほとんどはポリイミドを前駆体として使用していますが、我々の研究ではフェムト秒レーザを用いることでPDMSから高導電性のグラフェンを作製しています。さらに、PDMSの弾性およびグラフェンの導電性を活用して小型かつ高感度な圧力センサーを作製しました。同センサーを第二指に設置し、心拍数を計測することが可能であることを示しました。
本研究はAdvanced Engineering Materialsに掲載されました。
https://doi.org/10.1002/adem.202100457

2021【論文】レーザを使ってセルロースナノファイバーを導電性のグラフェンに

フェムト秒レーザパルス照射により、バイオマスであるセルロースナノファイバ―(CNF)フィルムを導電性にできることを発表しました。レーザパルス照射部は高い結晶性のグラフェンになり、過去の報告事例と比較して100倍程度の導電性を示しました。持続可能なエレクトロニクスデバイス作製の実現が期待されます。
本研究はACS Sustainable Chemistry & Engineeringに掲載されました。
https://doi.org/10.1021/acssuschemeng.0c09153

2020年 【論文】ハイドロゲルを光駆動させる金属微細構造

多光子還元法により作製した金属微細構造を用いて、刺激応答性ハイドロゲルのアクチュエーションを実現しました。マイクロメートルの場所選択的に構造を作製できることを活かして、照射する波長によって異なる方向にハイドロゲルが屈曲することを実験実証しました。未来のやわらかいロボットへの応用を期待しています。
本研究はOptical Materials Expressに掲載されました。
https://www.osapublishing.org/ome/abstract.cfm?uri=ome-10-8-1931

2020年 【論文】結晶性シリコンカーバイドおよび多層グラフェンの生成

フェムト秒レーザパルス照射により改質したPDMSでは、数ナノメートルから数十ナノメートルのシリコンカーバイド結晶および多層グラフェンが生成されることを確認しました。ラマン分析および導電性測定結果より、構造が持つ導電性にはグラフェンが寄与したと考察しています。
本研究はNanoscale Advancesに掲載されました。
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/na/d0na00133c#!divAbstract

2020年【論文】生分解性ポリマー表面のレーザ加工による細胞接着

フェムト秒レーザを用いて作製した微小貫通孔により、細胞接着および増殖が促進できることを実証しました。さらに、微小貫通孔のパターンにより細胞の配向性が変化し、分化が促進されたと考えられます。場所選択的に細胞の接着と増殖を変化させることができるため、生体組織構築への応用が期待できます。
この研究はJournal of Biophotonicsに掲載されました。
https://doi.org/10.1002/jbio.202000037

2019年【論文】 ソフトマテリアル内部に異種の金属微細構造を作製

多光子還元により同一ハイドロゲル内部に金と銀の微細構造を作製できることを実証しました。高度空間選択的に光学特性を付与することができることから、ソフトロボットの波長選択的アクチュエーションやセンシング等への応用が期待できます。照射条件により金と銀のコアシェルナノ粒子が生成できることも確認しました。
この研究はOptics Expressに掲載されました。
https://www.osapublishing.org/oe/abstract.cfm?uri=oe-27-10-14657

2018年【論文】 フェムト秒レーザを用いたPDMSの改質による導電性シリコンカーバイド構造の直接描画

フェムト秒レーザをPDMSに照射することで、PDMS表面を導電性構造に改質できることを実験実証しました。導電性構造がシリコンカーバイドから構成されることを確認し、高繰返しのフェムト秒レーザパルス照射による適度な熱分解が寄与したと考察しています。
この研究はNanomaterialsに掲載されました。
http://www.mdpi.com/2079-4991/8/7/558

2018年【論文】ハイドロゲル内部に作製した伸縮性ワイヤグレーティング

フェムト秒レーザを用いてハイドロゲルの内部に金属のグレーティング構造を作製しました。 ハイドロゲルの収縮によりグレーティング構造の周期間隔を変化させることができ、チューナブルな光学特性をもつ金属構造の作製に成功しました。 センシングデバイスあるいは光学デバイスへの応用が期待できます。
この研究はScientific Reportsに掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41598-017-17636-z

2017年【論文】PDMS/金属複合細線の作製およびその力学センシング応用

フェムト秒レーザによる光還元と光重合を用いてPDMSと金属の複合細線を作製しました。 さらに、作製した細線構造の抵抗値変化を利用した高感度な力学センシングを達成しました。 これはPDMSの柔軟性/弾性および金属の導電性を活用しています。
この研究はOptical Material Expressに掲載されました。
https://www.osapublishing.org/ome/abstract.cfm?URI=ome-7-11-4203



また、ニュース記事として複数のサイトに取り上げられました。
http://www.osa.org/en-us/about_osa/newsroom/news_releases/2017/metal-silicone_microstructures_could_enable_new_ty


https://www.sciencedaily.com/releases/2017/11/171101122438.htm


http://www.sciencenewsline.com/news/2017110115590085.html


https://phys.org/news/2017-11-metal-silicone-microstructures-enable-flexible-optical.html

2017年 【論文】透明材料表面への金の周期構造作製

ガラス基板上の金薄膜へのフェムト秒レーザ照射により、金ナノワイヤ周期構造を作製することに成功しました。 さらに、金薄膜の膜厚により構造周期がナノ寸法からマイクロ寸法まで変化することも明らかにしました。 自己組織的な生成が困難とされてきた「金」の微細周期ナノ構造を作製できたことは、応用面だけでなく同構造の生成原理解明にも貢献すると考えられます。
この研究はJournal of Applied Physicsに掲載されました。
http://aip.scitation.org/doi/full/10.1063/1.4982759

2017年 【論文】細胞膜・核膜の穿孔とプラスミドの導入

誘電体微粒子とフェムト秒レーザの相互作用を利用することで細胞内にプラスミドDNAを導入できることを実験的に示しました。 標識化したプラスミドDNAの細胞内の局在についても調べ、微粒子による増強光分布と細胞膜および核膜穿孔の関係について考察しています。
この研究はJournal of Biophotonicsに掲載されました。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jbio.201600323/abstract;jsessionid=A9576960AC3F80AFD26272D7FAED80D9.f03t01

2016年 【論文】フェムト秒レーザをトリガーとした薬剤放出

分子を内包した生分解性ポリマーのマイクロカプセルを作製し、フェムト秒レーザを照射することにより内包分子が放出されることを実証しました。 レーザ照射後も残存したカプセルにおいても外殻表面が改質していることも観察され、バーストリリースだけでなく徐放制御にも応用できる可能性を示しました。
この研究はJournal of Biomedical Opticsに掲載されました。
http://biomedicaloptics.spiedigitallibrary.org/article.aspx?articleid=2546591


2016年 【論文】生分解性ポリマーの分解速度を制御

生分解性ポリマーへフェムト秒レーザを照射することで、照射後の生分解を促進できることを実験的に示しました。 特に、赤外波長と比較して紫外波長のレーザを照射した際に顕著な分解促進が観測され、波長により照射後の生分解性が異なることを示しました。 組織再生足場材料の加工や薬剤送達システムへの応用が期待されます。
この研究はScientific Reportsに掲載されました。
http://www.nature.com/articles/srep27884

2016年 【論文】浮遊細胞への外来分子導入

生分解性ポリマーとフェムト秒レーザの相互作用を利用し、マイクロ流路を流れる細胞に蛍光分子を導入しました。 浮遊した細胞では、接着細胞を対象とした場合よりも細胞核内まで導入されている蛍光分子が多く観察されました。 骨髄細胞や免疫細胞にも適用できると考えています。
この研究はJournal of Biomedical Opticsに掲載されました。
http://biomedicaloptics.spiedigitallibrary.org/article.aspx?articleid=2522081

2016年 【論文】ハイドロゲルの内部に金属構造

フェムト秒レーザを使って、ハイドロゲルの内部に金属微細構造を作製できることを実験により示しました。 金属の直線構造はハイドロゲルの収縮後も維持されるため、レーザで微細構造を作った後にハイドロゲルの収縮によって更に一段階小さい構造にすることができます。 今後、フレキシブルデバイス、光学デバイスへの応用が期待できます。
この研究はOptics Letterに掲載されました。
https://www.osapublishing.org/ol/abstract.cfm?uri=ol-41-7-1392